前橋地方裁判所 昭和42年(わ)24号 判決 1968年2月23日
本店所在地
前橋市南町一丁目一一番一六号
合資会社
磯部鉄工所
右無限責任社員
磯部誠一
本籍
長野県南佐久郡佐久町大字平林七九九番地
住居
前記本店所在地に同じ
会社役員
磯部誠一
大正六年三月二八日生
右両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官井村章出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人である合資会社磯部鉄工所を罰金六、〇〇〇、〇〇〇円に、被告人磯部誠一を懲役八月に、それぞれ処する。
但し、被告人磯部誠一については、この裁判が確定する日から三年間右の懲役の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社は金属・工器具機械の製作販売等を業とし、製麺機の製造・販売を主たる営業内容とするもの、被告人磯部誠一は同会社の被用者として、昭和三八年一〇日より同社の代表社員に選任されるまでの間は同社の無限責任社員として同社前代表社員磯部幸三が老令かつ病身のため同人にかわり同会社の業務を総括していたものであるが、同被告人は、昭和三七年ころからのインスタント・ラーメンの製造販売等が異常な活況を呈したため、右会社の収益が異常な増加を示したのに際し、かような好況が何時迄も永続すると考えられないところから来るべき不況に備え同会社の業務に関し法人税を免かれて簿外の裏資金を貯え将来の不況に対処しようと企て、同会社の製品売上の一部ならびに製品たな卸額の一部を公表帳簿より除外したり、架空仕入れならびに架空経費を計上したりするなどの経理上の不正処理を行ない。
第一、昭和三九年二月二九日、所轄前橋税務所署長に対し、昭和三八年一月一日より同年一二月三一日までの間の事業年度における右会社の法人税確定申告をするに際し、同事業年度における同社の所得金額は二四、四九八、四四七円であり、その法人税額は九、二〇九、三九〇円であるにもかかわらず、同社の所得金額は三、一七六、三一九円、その法人税額は一、一〇六、九九〇円である旨の虚偽の申告をなし、もつて同会社の同事業年度における法人税八、一〇二、四〇〇円を逋脱し、
第二、昭和四〇年二月二五日、所轄前橋税務署長に対し、昭和三九年一月一日より同年一二月三一日までの間の事業年度における右会社の法人税確定申告をするに際し、同事業年度における同社の所得金額は七七、二三二、六二七円であり、その法人税額は二九、一二一、六六〇円であるのにもかかわらず、同社の所得金額は一六、一三四、三〇七円、法人税額は五九〇五三三〇円である旨の虚偽の申告をなし、もつて同会社の同事業年度における法人税二三、二一六三二〇円を逋脱したものである。
(証拠の標目)
(一) 判示第一の事実につき、
一、大蔵事務官松本武夫作成の証明書(昭和三八年度法人確定申告書添付のもの)。
二、大蔵事務官中久喜金造作成の昭和三八年度脱税額計算書。
三、国税査察官中久喜金造作成の昭和三八年度修正貸借対照表。
四、国税査察官中久喜金造作成の昭和三八年度調査所得(調査による増減金額)の説明書二通。
五、国税査察官中久喜金造作成の昭和三八年度修正損益計算書。
六、国税査察官中久喜金造作成の昭和三八年度製造原価計算書。
七、押収してある昭和三七・三八年度売上帳(昭和四二年(押)第三一号の一)。
八、押収してある昭和三八月度元帳(昭和年二年(押)第三一号の四)。
九、押収してある昭和三八年度分請求書綴一二綴(昭和四二年(押)第三一号の九)。
(二) 判示第二の事実につき、
一、大蔵事務官松本武夫作成の証明書(昭和三九年度法人税確定申告書写添付のもの)。
二、大蔵事務官松本武夫作成の証明書(昭和三九年度決議書写添付のもの)。
三、大蔵事務官松本武夫作成の証明書(昭和四〇年度法人税確定申告書写添付のもの)。
四、大蔵事務官中久喜金造作成の昭和三九年度脱税額計算書。
五、国税査察官中久喜金造作成の昭和三九年度修正貸借対照表。
六、国税査察官中久喜金造作成の昭和二九年度調査所得(調査による増減金額)の説明書二通。
七、国税査察官中久喜金造作成の昭和三九年度修正損益計算書。
八、国税査察官中久喜金造作成の昭和三九年度製造原価計算書。
九、押収してある昭和三九年度売上帳(昭和四二年(押)第三一号の二)。
一〇、押収してある昭和四〇年度売上帳(昭和四二年(押)第三一号の三)。
一一、押収してある昭和三九年二月~七月の総勘定元帳(富士製作所のもの)(昭和四十二年(押)第三一号の五)。
一二、押収してある昭和三九年八日~昭和四〇年七月の総勘定元帳(富士製作所のもの)(昭和四二年(押)第三一号の六)。
一三、押収してある昭和三九年分請求書綴一二綴(昭和四二年(押)第三一号の一〇)。
一四、押収してある昭和四〇年分請求書綴一二綴(昭和四二年(押)第三一の一一)。
(三) 判示全事実につき、
一、登記官作成の合資会社登記簿謄本二通。
二、磯部幸三作成の合資会社磯部鉄工所定款写。
三、国税査察官中久喜金造作成の簿外現金検討表。
四、大蔵事務官須田秀彦作成の富士銀行本店調査関係書類と題する書面。
五、大蔵事務官須田秀彦作成の富士銀行亀戸店調査関係書類と題する書面。
六、大蔵事務官須田秀彦作成の日本勧業銀行前橋店調査関係書類と題する書面。
七、大蔵事務官高畑正男作成の前橋信用金庫萱町支店調査関係書類と題する書面。
八、大蔵事務官金子藤太郎作成の埼玉銀行前橋支店調査関係書類と題する書面。
九、磯部千代子の大蔵事務官に対する質問てん末書二通。
一〇、磯部千代子の検察官に対する供述調書。
一一、桜沢志磨雄の大蔵事務官に対する質問てん末書。
一二、加藤千代子の大蔵事務官に対する質問てん末書。
一三、加蔵千代子の検察官に対する供述調書二通。
一四、上村悦三の大蔵事務官に対する質問てん末書。
一五、杉本兼次、中村進、川端八郎、新谷克己(二通)、三輪巌、寺川文夫、北川武夫、黄鎮茂、山井伊三郎、春山長、酒井滋人、根岸学、小平昌雄、斎藤丈太郎、大久保周三郎、磯部千代子、加藤登(二通)、黒河正雄、加藤義清、阿弥武夫、大串和己(二通)、平山典之、座古徳一(二通)、斎藤義実、吉越茂、立田正平、石沢万作、源辺喜美枝、松本晃、川崎佐次右衛門、綿貫三好、藤生啓吉、桜沢志磨雄、桜沢利雄、尾形清、加藤チヨ子、斎田忠八、徳野一、上条正、野村由一、矢野正男、桜井正一、及川嘉人、宮崎昌三、石田虎雄、田中三郎、羽鳥税務経理事務所、飯島通太郎、木暮安政、阿久沢松雄、茂野昭、鈴木民平、秋田喜三郎、樽沢孝次郎、八田昭一、根岸佑治、豊島卓司、高野金助、山口弥四郎、大沢和子、中曽根武、上村悦三、柳井次郎、二見栄一、小林源六、増田斎三、渡辺タミ、黒沢次郎、仁平僚三、猪ノ原昌一作成の各答申書。
一六、増田斎三、柳田源一、磯部幸三作成の各供述書と題する書面。
一七、瀬山松太郎作成の回答書と題する書面。
一八、大蔵事務官作成の差押てん末書二通。
一九、大蔵事務官作成の領置でん末書四通。
二〇、上村悦三、磯部誠一、桜沢志磨雄作成の各証拠品提出書。
二一、加藤チヨ子作成の証拠品任意提出書。
二二、押収してある製品下調メモ綴(昭和四二年(押)第三一号の七)。
二三、押収してある昭和三七~四〇年の決算書控綴(昭和四二年(押)第三一号の八)。
二四、押収してある請求書綴(昭和四二年(押)第三一号の一二)。
二五、押収してある納品メモ綴七綴(昭和四二(押)第三一号の一三)。
二六、押収してある買掛帳綴(昭和四二年(押)第三一号の一四)。
二七、押収してある売掛帳綴二綴(昭和四二年(押)第三一年号の一五)。
二八、押収してある入出金手控帳(昭和四十二年(押)第三一号の一六)。
二九、押収してある売上メモ綴(富士製作所のもの)(昭和四二年(押)第三一号の一七)。
三〇、押収してある架空請求書綴(富士製作所のもの)(昭和四二年(押)第三一号の一八)。
三一、押収してある昭和三七~四〇年各年度受注簿各一通(昭和四二年(押)第三一号の一九~二二)。
三二、押収してある小切手帳(昭和四二年(押)第三一号の二三)。
三三、押収してあるメモ(昭和四二年(押)第三一号の二四)。
三四、押収してある受益証券預り証(昭和四二年(押)第三一号の二五)。
三五、押収してある受益証券申込証拠金領収書及び計算書八枚(昭和四二年(押)第三一号の二六)。
三六、押収してある投資信託受益証券証拠金領収書二枚(昭和四二年(押)第三一号の二七)。
三七、被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書。
三八、被告人作成の各答申書。
三九、被告人の検察官に対する各供述調書。
四〇、被告人の当公判廷における供述。
(法令の適用)
被告人磯部誠一の判示第一の所為は昭和四〇年三月三一日法律第三四号付則第一九条、昭和三九年二月二九日法律第三号による改正前の法人税法第四八条第一項法第二一条第一項に、判示第二の所為は昭和四〇年三月三一日法律第三四号付則第一九条、同法による改正前の法人税第四八条第一項・第二一条第一項に、被告人である合資会社磯部鉄工所については被告人磯部誠一が同会社の業務に関して右違反行為をなしたものであるから、判示第一については昭和四〇年三月三一日法律第三四号付則第一九条、昭和三九年二月二九日法律第三号による改正前の法人税法第五一条第一項・第四八条第一項・第二一条第一項に判示第二について昭和四〇年三月三一日法律第三四号付則第一九条、同法による改正前の法人税第五一条第一項・第四八条第一項・第二一条第一項にそれぞれ該当する。被告人磯部誠一については所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条本文・第一〇条により犯情の重い判示第二の所為の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人磯部誠一を懲役八月に処し、なお情状により同法第二五条第一項を適用してこの裁判の確定する日から三年間右の懲役刑の執行を猶予する。被告人である右会社の本件各所為は、刑法第四五条前段の併合罪であるから同法第四八条第二項により各所定の罰金の合算額の範囲内で右会社を罰金六〇〇万円に処する
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 藤本孝夫)